ヒトガタ



 久々の再会が楽しみで仕方がなかった。
 顔見知りであるから、と陽子に頼まれた時は喜んで引き受けた。確かに用件は会い、手紙を渡すことだった。だが少しゆっくりしてきても構わない、と許可も得てきた。
 待ち合わせ場所は関弓の舎館の一室、貸しきって待つのは祥瓊だった。
「よう」
「お久しぶり楽俊」
 座って待っていた祥瓊が立ち上がる。灰茶の毛並みの半獣、雁の大学に通う巧出身の青年だった。
「祥瓊が来たんだな」
「あら、陽子から知らせは?」
「誰か見知っている人を送る、とは言ってたけどな」
「そうなの」
 とにかく座って、と祥瓊は楽俊に椅子を薦めた。少し間を空けて人が入ってきた。茶の用意を済ませて、すぐに退室していく。
「豪華な房室だなぁ」
「書面が書面だもの。景王のだから」
 手渡して楽俊は臆面もなく書面を広げた。文字で伝えるべき内容が記されているらしかった。
「……明日までに返事を書くな。まだいるんだろ、関弓に」
「ええ、明日まではいるわ」
「んじゃ明日まで待ってな」
「わかったわ……もう帰るの?」
「いんや、一応時間はあるぞ」
 尻尾を振る、その姿がなんだか懐かしくて祥瓊から笑みが零れた。
「本当に癒されるわ」
「癒される?」
「楽俊を見るだけで」
「おいらをか……これでも一応二十こえてるんだけどなぁ」
 ぽりぽりと頭をかく。
「あ、ちょいと待ってくれるか」
「どうしたの?」
「この後、すぐじゃないんだけどさ、弓の稽古があるんだ。どこか出かけるだろ」
「出かけられるなら」
「なら着替えてくるな、待っててな」
 そう言って退室していく。
「……着替えるって人の姿で戻ってくるのかしら」
 人型は初めて見る。心臓が少し高鳴る。期待をしているというよりは、初めて見る姿を待ちわびている。
「……祥瓊?」
「らく……」
 俯いた顔を上げる。
「人ね……」
「人だからなぁ。これで歳相応に見えるだろ?」
「ええ」
 近づいて見上げる。鼠の姿の彼は少し低いぐらいの背丈なのに、今は見上げる高さ。
「不思議ね……」
「へ?」
「見上げているもの」
「そっか、祥瓊はおいらのこの姿は初めてか」
「うん」
 でも人であっても、まとう彼の優しさは同じように感じられた。
「……祥瓊、いつまで……」
「もう少し見ても……時間がないわね」
 離れて扉を開く。
「どこに行くの?」
「大学までの間、色々店があるから、案内する」
「楽しみね」
 違う楽しみもある、彼とは辛い状況での短い旅だったから。
 ごく日常の、旅よりも短いけれど、でも身近なものに思えて。
「早く行きましょう、楽俊」
「ああ」
 嬉しそうに微笑む祥瓊、そんなに物珍しいのか、それとも純粋に出会えたことに喜んでいるのか。



 わからないけれど、なんだか嬉しく感じる楽俊だったが、祥瓊もまた同様だったことを彼が知ることは今はない――。


This fanfiction is written by Mgami Narumi in 2004.

[無断転載・複製禁止] Reprint without permission and reproduction prohibition.


こちらも真神なるみ様の「幻想故国」40万ヒット記念フリー配布作品です。
アダルトなこの二人ならば赤狗さん作品「想望」にありますが(誤解を招く?)、年相応(見かけ年齢で ^^;)な二人というのもいいですよねっ♪
滅多にお目にかかれないCPなので、こちらも頂いてきてしまいました。
こちらもイラストで見たいと思いません?
好青年の楽俊と、たまには幸せな祥瓊を!←何故たまに?
最近、脳味噌が腐りすぎているので、清純なものに惹かれたとも言えます・・・(笑)


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