再 会




 陽子に紹介された新しい慶の冢宰は延王が思っていた通り、四十年前に会った生意気な大学生だった。驚いたのは当然、浩瀚の方だった。
「賢帝と名高い延王が妓楼にいたなどとは誰にも言えませんね」
陽子が退出した後に浩瀚が言った。
「温厚篤実な元麦州侯が妓楼にいたことよりも可笑しくはないさ。俺もその噂を聞いたときには同名の別人だと思ったからな」
「大学時代の知り合いは皆同じことを言いますよ」
「お前ならば冤罪をかけられて陽子に訴えることも出来たはずだ。なぜ弁明しなかった?」
「わたしがそれをしていたら、主上の命が危なかったからです。それに大地の恵みを受ける為に、たとえ傀儡(かいらい)でも慶には王が必要だったのです」
延王は片眉を上げた。
「噂通りの州侯ではなかったようだな。何をしていた?」
「交易の要所である麦州の経済力を盾にとって朝廷を脅していただけですよ」
延王はくつくつと笑った。
「それでこそお前だな。群がる刺客も自分で斬っていたわけだ。あの妓楼があった街と同じことを麦州でやったのか?」
「麦州の産県がそういう土地柄だったのです。それを麦州全土に広めたに過ぎません」
浩瀚の言葉に延王は鼻先で笑った。
「簡単に言ってくれるな。それで、予王は救えなかったのか?」
「貴方はわたしを買い被っているのですか?予王には自分のために集められる人材は次王の為に集めよと言われたのです。麦州を犠牲にしようとしていたわたしを窘めてね」
「そうか。お前はよくよく、慶の女王とは縁があるらしいな。餓鬼の頃のように安易に惚れるなよ。命がいくつあっても足りんからな」
「主上からお聞きになったのですか?」
延王は眼を見開いてから再びくつくつと笑った。
「お前、本当に仙籍を外された上でやったのか?お前ならやりかねんと思っただけだ。陽子は何も言ってはおらん」
浩瀚は天井を仰いで溜息をついた。
「他国の人間にばかり頼っていては慶の面目が立ちませんからね」
延王は片眉を上げた。
「お前、俺と張り合う気か?」
「ええ、こと慶に関しては」
延王は軽く鼻先で笑った。
「当然のことだったな。何にせよ、陽子がこの王宮で機嫌が良かったのは今回が初めてだ。陽子の為を思うのならば、お前等が死なんことだ。個人に向けられた信頼に代われるものなどない」
浩瀚は延王の眼を覗き込んで少しの間沈黙した。
「胆に命じておきましょう。ですが、主上は貴方をも信頼している様にお見受けしましたが・・・」
「ふん、他国に頼らざろう得ない状態が許せんと言のだろう?まあ、後は胎果のよしみというやつだ。これだけはお前には代われんな」
この時、延麒六太が景麒と共に堂室(へや)へ入ってきた。
「なんか寒くねえ、この堂室!」
六太の言葉に景麒は首を傾げた。
「そうですか?」
「延台輔にお風邪を召されては一大事です。火をお持ちしましょう」
浩瀚の言葉に六太は両腕を差しだし、手を振った。
「そこまで寒くない!いや、ほんと。気にしなくていいから」
慌てて言う六太に延王はくつくつと笑った。
「余計なことを言うからだ」
六太は恨めしそうに自分の主人を睨め付けた。
 それから間もなく、陽子が二人の人物を従えて現れた。
「お待たせしました。我が国の新しい左将軍と太師をお連れした。ご紹介しましょう」
陽子は満面の笑みを浮かべて言った。それは延王が金波宮に訪れるようになってから初めて見る表情だった。


− 了 −
This fanfiction is written by SUIGYOKU in 2002.
背景素材:InvisicleGreen

[無断転載・複製禁止] Reprint without permission and reproduction prohibition.


めれーな様( banquete )へボジョレー・ヌーボォ編の期限を指定したお詫びにお送りした作品の後日談です。
My設定の浩瀚は遠甫の陰謀で麦州の令伊となり、柴望の謀略で麦州侯となって、桓堆の余計な言葉で景国の冢宰になった不幸な奴(?)です。もっとも、困難な状況を楽しみそうなので、嫌がってはいないでしょうね。妓楼に通っていようが、陰謀を張り巡らせようが、健全な精神の持ち主として書いているつもりなのです。まあ、信じなくてもいいのですが・・・ ^^;)
(「邂逅」へ)


Albatross−翠玉的偏執世界−
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