封神されし者共の彷徨 〜拉麺編〜


 時は慶国歴赤楽10年、場所は慶の首都堯天のとある拉麺屋、その店主は海客で蓬莱でも拉麺一筋の人間だった。こちらに流されてからは蓬莱出身の景王に願い出て、数年前にこの店を出すに至った。景王は大層お喜びになり、お忍びで共の者達と度々やってきていたのだが、その他にも拉麺屋には似つかわしくない風変わりな客も時折やって来ていた。
 今夜訪れた初めての客は長身で白い髪に紅い瞳、見かけの歳の頃は20代後半、腰に大きな剣を佩く厳つい軍人風の男だったが、言葉遣いには誠実さが見えた。どうやら彼の息子らしい蒿里という少年から是非とも食べてみてくれと薦められたのだと言う。その彼一押しの野菜たっぷりの味噌拉麺をその男は頼んだ。
 そして、時折訪ねる襦裙を来た男は先客とは顔見知りらしく、愛想良く笑いかけるとその男の隣に座った。店主は「いつものでいいんですね?」と言うと彼は「ああ」と言って、袂から美しい飾り紐を取り出し、優雅に流れるその髪を縛った。店主には見慣れた光景だったが、紅い瞳を持つ男は不思議そうに首をかしげた。
 そこに、もう一人の常連が現れた。20代半ばの長身のその男は蓬莱の出身だとしばしばこの店を訪れる。彼は襦裙を着た男を見ると一歩後ずさった。彼ら二人はこの店の常連だったが、この店で一緒になったことはなかったのだ。しかし、もう一人の先客を見つけると気を取り直して、襦裙を着た男の隣に座った。彼のお気に入りは干したいわしから取ったダシで作る醤油だった。彼には何も問う必要はない。店主は手際よく3つの拉麺を作った。
 紅い瞳の男は味噌拉麺が出てくるとまず、湯(スープ)を飲み満足そうに頷いている。機嫌よく拉麺を食べる彼は最初の厳つい印象から比べるととても微笑ましくあった。次に襦裙を着た男の拉麺を出すと、両脇の男共は目を見開いた。その上品そうな姿からは想像できないほどの大量の具、野菜と魚介類、海草を載せた塩拉麺が彼のお気に入りだった。前髪を掻き揚げつつも拉麺を平らげる早業に未だ店主は驚きを禁じえない。そして、醤油拉麺が出てくると、隣の男はぞぞぞ、と勢い良く食べ始めたのだが、襦裙を着た男は扇子で彼の頭を叩(はた)いた。叩かれた方は「これがこの店の常識だ!」と叫びかけたたものの、この男にそんな言葉は通じないと飲み込んで今度は静かに麺を喰らった。言い合いをしていると拉麺が伸びてしまう、というごく当たり前の判断だった。
 この風変わりな、お互い知り合いらしい三人はほぼ同時に拉麺を食べ終えた。そして、同時に立ち上がると勘定を済ませ、それぞれ別の方角に何食わぬ顔で立ち去ったのだった。

− 終劇 −
「13℃」様への献上品 2005/06/12 初出
This fanfiction is written by SUIGYOKU.
[無断転載・複製禁止] Reprint without permission and reproduction prohibition.

この「飲んだ後は拉麺編」のオマケはcoさんと酒を飲んだ帰りに拉麺を食べている時に「封神されし者共の彷徨風で藍滌と尚隆が黙って拉麺を食べていると面白いんじゃない?」とcoさんが宣ったお言葉から生まれました。
尚隆は干いわしの出汁の醤油、驍宗サマは味噌、藍滌サマは二人が見ただけで驚くような塩拉麺、そして、一番最強なのは拉麺屋の親爺、と話は盛り上がり、誰に書いてもらうかまで話し合ったのに、帰りに「楽しみにしているね〜v」と振られ、「じゃあ、絵を描いてもらうからね!」と別れて、帰りの電車で真剣に考えました。(笑)
coさんはどんぶりが描けないと絵を挫折し、代わりに他の方を呪うと仰いましたが、どうなることやら・・・
それにしても、ホント置き場に困るSSSです。

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