命 の 水

−ノーカットVer.−

 陽子と尚隆は吹雪の中を歩いていた。積雪は膝ぐらいしかないが、そこは異様に寒い土地だった。歯の根の合わない陽子に尚隆は酒の入った容器を陽子に差し出した。陽子はそれを受け取って、尚隆を見上げた。吐いた息さえ凍り付きそうな厳寒の中にあっては口を開くことさえ躊躇われた。尚隆が頷くと陽子はそれを口に含んだ。それは舌にとろりと流れ込み、僅かに草の香りがした。本来はきつい酒だが、冷え切った体には仄かに熱を与える程度だった。もう一口酒を口にすると陽子は尚隆にそれを返した。返された尚隆もそれを口に含んだ。尚隆はその酒が陽子の舌のようだと思った。自分を見て微笑む尚隆に陽子は首を傾げた。尚隆はそんな陽子に口づけ、舌をすくった。陽子は尚隆が何を考えたのか理解して、上目遣いで軽く睨め付けた。尚隆は口の端で笑いながら陽子に再び酒を手渡した。
 その酒が無くなった頃、ようやく聞いていた一件の小屋が現れた。陽子は眼を輝かせて尚隆を見上げた。尚隆も微笑んで頷いた。二人は小屋に辿り着くと入り口で自分たちに積もった雪を振り落として、竈に火を熾し、鍋に水を入れた。
 尚隆がその小屋にある物で、今の自分たちに必要な物を物色していたが、あまりに静かな様子に振り向くと陽子は竈の前で膝を抱え、うずくまっていた。
「おい、陽子!どうした?」
「ん?少し眠い・・・」
尚隆は顔色を変えて陽子を揺すった。
「今寝たら起きられなくなるぞ!俺に次の里までおぶって行けというのか?」
「少し、だけ・・・」
尚隆は陽子を抱き寄せ、唇を割って舌を差し入れた。陽子はそれに応えずにぐったりとしたままだった。尚隆は陽子の上衣に片手を差し入れて、胸の柔らかな膨らみを揉み上げた。
「やん、冷たい・・・」
陽子は差し入れられた腕を力無く掴んだ。
「すぐに暖まる」
言って尚隆はもう片方の手も背中から衣の下方へ差し入れた。陽子の腰が僅かに跳ね上がり、短い声が上がった。再び唇に割って入ると今度は僅かに舌を押し戻してきた。くねる腰を押さえ、とろりと熱い液体に浸した指から伝わる熱が全身に広がると、尚隆は身体の内部から新たに沸き上がってくる熱を陽子の体を二つに折って下半身に纏っている衣を僅かに引き上げ、押し込んだ。
 仰け反る陽子の唇から漏れい出る声は言葉にこそなってはいないが、生気に溢れていた。上衣は左右にはだけられ、尚隆の両手が柔らかな膨らみを揉み上げていた。その頂を口に含む尚隆の頭を陽子は両手で掻きむしっていた。下肢に纏う布は既になく、左右に広げられたのびやかな脚は尚隆の腰を絡め取っていた。陽子はもう、寒さに震えてはいなかった。

「こんなのも悪くないな」
陽子は尚隆の旗袍(がいとう)を羽織って膝を抱えくすくすと笑った。目の前では竈の火が音を立てながら勢いよく燃えていた。
「さっさと着ないとすぐに体が冷えるぞ」
「うん、でもこんな寒さの中じゃ何のために必要かわからない行為がとても重要なことだと思えてくる。人間に戻ったような気がするな」
陽子は膝の上に頭をもたせかけた。
「陽子はそんな風に思っていたのか?」
「だって、こっちじゃ子供を望んでする行為じゃないでしょう?」
「向こうだって子供を望むだけですることではあるまい?一概にそうとも言えんさ」
「少なくともわたし達には意味がない」
尚隆は器に湯を注ぐと陽子の傍らに座った。
「つれないことを言ってくれるな。そら!」
陽子は尚隆がよこした湯気の立ち上る器を両手で受け取った。その時尚隆の旗袍が左右に開き、何度見ても心を騒がす瑞々しい素肌が露わになった。そんな尚隆の視線を意にも止めず、陽子は薬のような香りのする湯気を嗅ぎながら器に唇を寄せた。口に含むとそれには蜂蜜が入っていることに気付いた。そして、それが胃に落ちると体の芯から熱が体中に広がっていった。
「これは薬酒?」
尚隆の器からは湯気が立っていなかった。陽子の器に入れた酒を素のままで飲んでいた。
「元はな。下手な酒より美味いんで普通の酒として飲まれることの方が多くなった。蒸留した酒に杜松子(としょうし)を漬け込んであるから、薬のような匂いがするだろう?熱病に効くそうだ」
「蒸留って?」
「ああ、酒を飲まん人間にはわからんか。最初に作る酒は糖分のある穀物や果物を発酵させたもので醸造酒と言う。酒精というものは水よりも低い温度で蒸発してな、その蒸気を集めれば醸造酒よりも酒精の強い酒が出来上がるという訳だ」
「なるほど。って、じゃあその酒に色なんかつかないんじゃないのか?ウィスキーって蒸留酒なんだろう?」
体ごと自分を向いてくる陽子に尚隆はくつくつと笑った。
「その通りだ。あれは葡萄酒を入れていた樽で寝かせている間に沁み出した色だそうだ。他にも後から加えるもので色がつくものもある。ここにたどり着く前に飲んだ酒は淡い緑色だ。茅の汁と茎が入っていてな、元々は強い酒を飲みやすくするために炭で濾過して癖を除いた酒なんだが、再び香りを付けることもある」
「ああ、こんな寒さじゃ草木が生い茂る季節を懐かしむ気持ちがわかるな」
「そうだな。それにこの寒さじゃ凍らない酒が命を繋ぐこともある」
「そうか、酒って酔うためだけにあるわけじゃないのか」
尚隆は声を上げて笑った。
「それは俺がいつも酔っぱらっているという嫌みか?」
「酔っぱらいに、いい印象などないだろう?」
陽子は悪戯っぽい瞳で尚隆に笑いかけた。
「どんな行為にも意味はあるさ。こういうことにもな」
尚隆は陽子を抱き寄せ、自分の膝の上に抱き上げて唇を塞いだ。尚隆に抱えられた素足が左右別々にしなやかな動きを見せ、時折膝が跳ね上がった。狭い空間に荒い吐息と啜り泣くような、嗚咽のような啼き声が響いて行った。外の吹雪は一層激しくなっていた。


− 了 −

注)尚隆が言っていた葡萄酒とはシェリー酒のことで、これは質のいいスコッチに使われることが多く、必ずしもウィスキー全てというわけではありません。色はオーク材の樽から出るのです(汗)

This fanfiction is written by SUIGYOKU in 2003.
[無断転載・複製禁止] Reprint without permission and reproduction prohibition.

知らない方にご説明申し上げると前半の酒がウォッカ(わたしが飲むのはズブロッカだけ ^^;)、後半がジン(常世だから多分ジェネヴァ、でもわたしが飲むのはドライのジントニック)です。ちなみに、陽子が飲んでいるのは「辺境警備隊」に出てきたアクアウィータ(笑)
ウォッカの語源はスラブ語の「命の水」ズィズネニャ・ワダ(ZhiznenniaVoda)から来ているそうです。要は略して水だけが残っというわけです。
北欧の酒アクア・ヴィットもラテン語のアクア(水)とヴィテ(命)から。ジンのお仲間のような酒で杜松(ねず)の実ではなく、他のハーブで香り付けをするらしいです。
はー様がご存知のウィスキーの語源であるゲール語の「命の水」はウースカ・ベーハ(Uisge Beatha)だそうです。他にも酒を「命の水」と呼ぶ国が有りそうですね。
蛇足ながらジンの語源は杜松の実のフランス語ジュニエーヴル(Geniever)から。漢方薬では杜松(ねず)の実を杜松子(としょうし)と呼ぶようです。杜松の別名はネズミサシ、毛皮ファンには嫌な名前でしょうね。

−制作裏話−
co様リクのウォッカ&ジンです。特にカップリングの指定はありませんでしたよね?
しかし、浩陽同期仲間に尚陽は顰蹙か・・・
ウォッカやジンといったら、舞台は厳冬の地しかない!
そして寒ければ当然の如く、暖め合うでしょう?
おかげで尚陽が降ってきたわけですが、尚陽ファンの怒りに触れないことを祈ってます。
調子に乗りすぎ、はー様倫に抵触して修正しました ^^;)

う〜ん、My設定の尚隆はもっとシリアスな奴だったのだが、カケルにすると単なるスケベになってしまう・・・。でも、それは浩瀚も同様か ^^;)
とりあえずは、初の尚陽がこれとは、先行きが不安だ・・・
真ん中をカットって、そうそうないだろうな(苦笑)

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