ギャルソンが開店準備をしていると、馴染みの魚屋が準備中の札のかかっている店に入ってきた。いつもなら熊の姿で魚タイの前掛けをしているのだが、珍しく人型でスーツにネクタイ姿をしていた。 「おう、珍しい格好だな」 ギャルソンが声をかけると桓堆は口元を歪めて笑うと懐から身分証明証を取り出して、写真と警視庁のバッチを開いて見せた。魚屋は彼の実家で、本職は警視庁の捜査2課の刑事だった。 「小松尚隆、あなたを殺人容疑で逮捕しにきました」 ギャルソンは顎に手を当ててにやにやと笑った。 「覚えがないのだが・・・」 「そりゃそうでしょう。女子高生のお願いを聞いても、腹黒いおじさんの忠告を無視するからですよ」 桓堆はバッチをしまうと、今度は手錠を取り出し、ギャルソンの腕に嵌めて片目を瞑った。 |
「捜査2課のお前が何で殺人事件の犯人を捕まえにきたんだ?」 「1課の成笙警視に押しつけられたんですよ。どうせ、2課の仕事になるだろうからってね」 「奴はおれに借りを作るのがよほど嫌なんだな。どうせなら、この間お前のトコにいた美人刑事にしてくれりゃいいものを」 ギャルソンは手錠を嵌められた手を挙げた。 「似合ってるぜ。おまえなら、いつかこんな目に遭うだろうって思ってたよ」 六太は楽しそうに言うと歯を見せて笑った。 「李斎警部はSPなんです。女性要人の警護が主な任務で、野郎の相手はしませんよ」 「そいつは残念だな。無実は晴らしてくれるんだろう?」 「用意周到に証拠が揃えられていますからね、すぐには無理でしょう。まあ、KIMPAの社長にお願いされてあの人も出てくるでしょうから警察に任せておくよりも早く出られますよ」 ギャルソンは片眉を上げた。 「あいつに良いとこ取りをされては敵わんな。おい、六太。おれは警察に泊まる気はないぞ」 「わかったよ」 ギャルソンと桓堆警部を見送って、六太は片手を上げてひらひらと振った。 「店はどうするんですか! もうすぐで開店ですよ」 六太が店を出ようとすると楽俊が叫んだ。 「楽俊ならおれたちの代わりが務まるだろう? よろしく頼むな」 六太は片目を瞑って店を出て行った。楽俊はがくりと肩と尻尾を落とした。 「またですかぁ〜」 警視庁の取調室では調書を作る為の基本的な質問を済ますと、桓堆警部はギャルソンのここ最近に関わったトラブルを聞いていた。事細かに詳細を書き取り、食事を終わらせた頃に部下が部屋に入ってきてギャルソンの釈放を告げた。 「どんな魔法を使ったんです?」 目を見開く桓堆警部の言葉にギャルソンは鼻先で笑った。取調室を出るとそこには『翠薇洞』のオーナーである梨耀が立っていた。 「お久しぶりね、魚タイのボーヤ。玄英のボーヤはわたしが預かるわね」 梨耀は機嫌良く言うと、ギャルソンの腕に自分の腕を絡ませた。桓堆は頭を抱えた。 「総監を脅しましたね」 梨耀は微笑んで指を一本唇に当てた。紅い爪と紅い唇が鮮烈だった。 「内容は企業秘密。でも、ただで玄英のボーヤを引き渡せとは言わないわよ。殺された女は以前、斡由の選挙事務所で働いたことがあるそうよ。そこからきっと面白いことが出てくるんじゃないかしら」 「どこで斡由と関わったんですか!」 桓堆はギャルソンを睨め付けた。 「そういや、陽子が友達の姉さんが奴に惚れているが、その友人は斡由が気にくわんらしいから、奴を調べてくれって言われてたな」 「その話を詳しく話して頂けませんかね」 「あら、だめよ。彼はもう釈放なんだから。続きはウチに来てちょうだい」 梨耀はギャルソンの胸に手を当てた。 「危険なんですよ」 「わたしに手出しできるかしら?」 口元で笑う梨耀に桓堆は身震いした。 「この人に借りを作ると大変でしょうね」 「野郎に借りを作るよりはマシだな」 ギャルソンはそう言うと梨耀の肩を抱き、笑いながら警視庁を後にした。 2004/02/05 UP |
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