策 謀−夜紅虫様
Illustrated by YAKOCHU in 2004.
「主上と楽俊殿は本当に仲睦まじいですねぇ」
禁軍左将軍の桓堆は慶国の官吏となるべく、人形で朝廷に挨拶に来た楽俊と陽子を見守りながら言った。
「そうは思っていないのは、当の本人達だけだろうな」
冢宰の浩瀚はくつりと笑った。
「浩瀚殿は主上の大公が半獣でも構わないのですか？」
口の端に笑みを浮かべる桓堆を浩瀚は冷たい視線で見返した。
「姿が獣でなくとも、人間は心にも獣性はあるものだ。目に見える違いと張り合う気はない」
「皆がそう思ってくれればいいんですけどね」
「わたしは正直、楽俊殿が慶の官吏になるとは思っていなかった。だが、主上の御為には慶に来てくれることを望んでもいた。彼を慶の人間に害させてはならない。わかるな？」
「ええ、半獣に差別を持っているつもりがなくても楽俊殿は優秀すぎますからね。正当に評価をされても余計な波風は立つでしょう。楽俊殿もある程度の覚悟をしているとは思いますが、楽俊殿を失うことは主上を失うことにもなりかねない。そう考えると掌固（けいび）の面からも、楽俊殿をさっさと大公にして下さると助かるんですがね」
「それも慶での実績を皆に認めさせなければ無理だろう。問題の多い今の慶には優秀な官が一人でも多く必要だ。楽俊殿には大いに活躍してもらわなくてはならない」
桓堆は天井に向かって息を一つ吐いた。
「そういうことならば、もう手を打ってあるということですね。不穏な動きがあったら即対応できるようにしておきましょう。わたしの方でも気にかけておきます」
陽子に呼ばれて二人は女王と新任官吏の前に進み出た。「頼りにしている」小声で浩瀚は後の桓堆に言った。
―― Witten by SUIGYOKU in 2005.――
