楽陽イラスト−夜紅虫様
Illustrated by YAKOCHU in 2005.
堯天の街中、陽子の目の前に長袍を着た楽俊が立っていた。
「お迎えに参りました。主上」
かしこまって拱手をする楽俊に陽子は腕を組むと横を向いた。
「宮中以外でその呼び方をするなんて、それじゃぁ返事をしてやらない！」
「拙めは役務中でございます」
陽子が楽俊に背中を向けて歩き出すと、楽俊は溜息を一つついた。
「陽子」
その呼び声に、陽子はくるりと振り向き、機嫌良く駆け寄ると、楽俊の胸に飛び込んできた。
「王と臣下でも楽俊がわたしの大切な友人だということには変わりない。変な距離など置かないで欲しい」
ねずみの姿の時は抱きしめるというよりも、抱きしめられていた。だが、こうして人形で陽子を抱きしめると華奢な少女なのだと思い知らされた。
「努力はしてみるけど、襦裙姿では抱きつかないでくれよ。皆の視線が突き刺さりそうで、生きた心地がしねぇんだ」
陽子は楽俊の腕の中でくつくつと笑うと「気をつける」と言った。
「ねずみの姿の時はさわり心地がとてもいいけど、人形（ひとがた）の腕の中も気持ちが良くて落ち着くよ」
「陽子はおいらを男だとは思っちゃいないだろ？」
陽子は楽俊の腕からするりと抜けて楽俊をまっすぐに見つめた。
「楽俊だって、わたしを女だとは思ってはいないだろう？」
無邪気に笑いかける陽子に楽俊は頭を抱えた。
「まあ、いいか。陽子に好きな男が出来たらおいそれと抱きついてくることはなくなるだろうしな。気苦労の絶えない王様のために説教はしないでおいてやるよ」
「助かるよ！」
陽子はそう言うと、今度は楽俊の片腕にしがみついてきた。
―― Witten by SUIGYOKU in 2005. ――
