低血圧な朝



キン、と冷えた空気が陽子の眠りを妨げた。
空気の入れ替えの為に薄く開けていた窓から、
凍えるほど冷たい風が吹き込んでくる。

もうこんな季節か、と呟いた。



冬は好きだ。
理由は至極単純で、隣で眠っている男が朝になるまで出て行かないから。
他の季節だとこうはいかない。

春と秋は陽子が起きる前には臥室に居ないし、
夏にいたっては既に朝議の準備を済ませている。
ただ、冬は、冬だけは衾褥の中に留まってくれるのだ。
だから冬は好きだった。



窓を閉めようと冷えた床に足を下ろす。
襖を軽く引っ掛けて用を成し、臥牀に戻ると寝ているはずの浩瀚の手が、
妙な動きをしているのに気がついた。

「・・・浩瀚?」
そっと呼びかけてみるが浩瀚は目を開けず、眉根を寄せたまま手を動かす。


ぱたぱた。
ぱたぱた。


動く手は、どうやら何かを探しているようだ。
衾褥の上を泳ぐ手をおもわず掴むと動きが止まり、浩瀚の顔が和らいだ。
「・・・・・・・・・寒い」
掴んだ手を逆に抱え込まれ、更に頬に押し付けるようにされてしまって。
陽子にとって、浩瀚の行動は赤面する程のものだった。

「・・・今のは何か?湯たんぽ代わりの私が消えたからか?」
どうにか冷静さを装って、慣れない分析などを試みるが、
浩瀚に腕をとられている状況は変わらない。
陽子は再び臥牀に戻り、寒さに弱い彼を腕の中に抱えなおした。

ふと、先ほど窓から見えた太陽の位置を思い出す。
いつもはもう少し寝ている時間だが、早めに起こした方が賢明だろう。



「普段は政務でなかなか寝ようとしない癖に・・・」
幸せそうに眠る浩瀚を起こすのは、何時も躊躇してしまうのだが、
相手の為を考えればそうも言ってられない。
「可哀相だが・・・まぁ、仕方ないな」
大きなため息をつく。

陽子は抱えていた腕をそっと外し、一向に目覚めない浩瀚の頬を軽く叩いた。
「おい、浩瀚起きろ。そろそろ起きとかないと、朝議が辛いぞ」
「・・・・・・ん」
ぺしぺしと叩かれるのが嫌なのか、ふいと顔を背けるが
起きだす気配はまるでない。



(・・・仕方ない、延王から教わった最終手段でも使うか)



「−−−浩瀚、いつまでも寝てると・・・・・・襲うぞ」
耳元で低く囁くと、さすがに肩がひくりと反応した。

「・・・ん」
ゆるゆると首が動き、目がしきりに瞬きを繰り返す。
緩慢な動作で腕を動かし、顔を被うと再び静かになる。

「浩−瀚−」
すーっ、とか聞こえる寝息に少々困りつつ、
陽子は被う腕を剥がしてため息をつく。



実際、陽子は困っていた。
寝ぼけた浩瀚の声は少し掠れていて、少し舌足らずで
つまり、「色」があるのだ。
その声で、「・・・ん」とか言われたら調子が狂ってしまう。

「頼むから起きてくれ、な?」
子供をあやすように、けれど切実な思いをこめて呼びかけ続けた。


This fanfiction is written by Hduki Moe in 2004.

[無断転載・複製禁止] Reprint without permission and reproduction prohibition.


「異端文書」の30万ヒット記念フリー配布を頂いてきました。
冬の寒さに陽子主上から離れられない浩瀚、うらやましい〜〜〜←をい!
続きは自分で考えよということでしょうか・・・


 なかなか目を覚まさない浩瀚に、陽子は「よし!」と言って上掛けを剥ぎ、浩瀚にまたがって両手で脇腹をくすぐった。しかし、浩瀚はわずかに身じろぎしただけで一向に起きるつもりはなさそうだった。
「いい加減に起きないか!」
そう耳元で叫んでやると、浩瀚は薄っすらと目を開け陽子を見つめて微笑んだ。
「襲っては頂けないのですか?」
陽子は目を見開いて浩瀚の襟元を両手で掴んだ。
「最初から起きていたな!」
「主上が離れておしまいになるので、寒さで目が覚めましました。こういう場合は衾褥から抜け出さずに、甘い言葉で囁いて頂けるだけで目覚めるものですよ。もっともこのように挑発して頂けるのは嬉しいですが・・・」
「ばっ、・・・!」開いていた太腿に触れられて陽子は慌てて足を閉じ、上掛けを被って浩瀚に背を向けて横になった。浩瀚は背後から陽子を抱きすくめて耳元に唇をよせて何事かを小声で囁いた。



裏仕様にならないように考えるのは難しいですね=3


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